「おはようお兄ちゃん」
パジャマ姿の琴美が言った。
「おはよう。歯を磨いたら朝ごはんにしよう」
焼いてない食パンを手に、光男が言った。
「はーい」
素直に返事する琴美。
いいねえ。でも、これぐらいの素直な期間は短いんだよな-----
洗面所で歯磨きする琴美を見て光男は思った。
夏休みとはいえ、遅く起きたりしない。
これは実は、琴美の親からこう言われていたからだ。
『小さい子供だからといって甘やかさないでね』と。
『早寝早起きはもちろんの事、夏休みの宿題の一部を持って行かせるから、午前中に出来る限りやらせてね』
とも言われていた。
朝食を終え、さっそく宿題をすることにした。
「夏休みの宿題って、どんなのがあるの?」
「工作、お絵描き、漢字の書き取り、算数のドリル、読書感想文!」
「小学1年でも、結構な量だな・・・。俺もそうだったけど」
そして、お約束とでもいえる言葉を琴美が言った。
「読書感想文やりたくなーい」
「俺も読書感想文はイヤだったけど、今の子供もそうなのか・・・」
「でも、宿題は子供のお仕事。やらなくちゃね」
「はーい・・・」
琴美は、しぶしぶ原稿用紙をカバンから取り出した。
「最初に読書感想文に取り掛かるのか。たしかに嫌な物を先に済ませた方が、あとが楽だもんな」
『△△の本を読んで』
さっそく琴美は原稿用紙に書き始めた。
「ところで読書感想文は原稿用紙で何枚分なの?」
「2枚だよ。2枚目は半分以上、文字を書かないといけないの」
「そこまで埋めるほど、文章は用意してるの?」
「してない」
「・・・どうするの?」
「読書感想文の場合、原稿用紙を埋めるのに困ったら、物語や登場人物の特徴を説明する文章を書けばいいって聞いたから」
「・・・よくある話だな」
原稿用紙を埋めるのに、あらすじの説明を書いて済ませるケースは今の時代もあるようだ。
間違ってもカレーのレシピを書いてはいけない。
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