パフェ食べさせてあげるから、と言われたものの、まだ小学1年の恵夢には退屈地獄はつらいものである。
とはいえ彼女も女の子。並べてある婦人服やアクセサリーを見て、自分も着て見たいなあ、と思い始めた。
備え付けの鏡の前で、商品の服を自分の身体の前に当ててみる。
しかしまだ子供の恵夢には、ここに並んでいる服は大き過ぎた。

服選びに夢中の母親をよそに、恵夢は売り場をウロウロし始めた。
大人向けの大きな服、さらに大きな服が並んでる場所(大きなサイズの服コーナー)、
さらにはレディーススポーツウェアの売り場、などなど。

やがて恵夢は、売り場フロアの端、階段のある場所に来た。
大多数の客はエスカレーターやエレベーターを使うので、階段は常に人がいない。
時折、情熱的な状態のカップルがいたりするのだが。
階段を見て「誰もいないなー・・・」と、つぶやく恵夢。

そんな恵夢に声をかける者がいた。
「お嬢ちゃん、おいで」
声をかけたのは成人男性だった。年齢は20代後半ぐらいか。
その男性は知らない人なので、当然の事ながら恵夢は驚いて引き返そうとしたが・・・
「パフェ食べたいんだよね?」
その男が言った。
「うん。食べたいけど・・・」
おそるおそる答える恵夢。警戒しているのだ。
「今すぐ食べさせてあげるよ!」
その言葉で、恵夢の警戒心は、すぐに解かれたのだった。

『今すぐ食べさせてあげる』、この言葉に警戒心が解かれたのには理由があった。
母親による、好きな物を食べさせてあげるという言葉には、必ず条件が付く。
現に今も、服とアクセサリーを買い終えたらパフェを食べようという話で、既に条件付きとなっている。
しかし無条件で好きな物を食べさせてくれるとなると、幼い子供は飛びついて当然だろう。

「さあ、おいで」
「うん!」
恵夢はさらに人気(ひとけ)のない、階段の上の方の階へと連れられて行く。

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