場所は、とある駅の前。
その駅を通勤に利用する社会人の女性が「今日も遅くなったわね」と、つぶやいた。
鞄からスマホを取り出し、時間を確認する。
「11時半過ぎてるわ」
この女性の名前は真紀(まき)。
会社では色々と期待されている、いわゆる『若手のホープ』であった。
普段なら仕事時間は朝~夕方という、よくある勤務時間なのだが、
期待されているが故に、いろいろと頼まれる事も多いため、
仕事終了時間が伸びまくるのは日常的で、終電に乗って帰るのも珍しくなかった。
「忙しいのはいい事なんだけどね・・・」
コンビニで買ったコーヒーをすすりながら、真紀は電車の時刻表を見る。
「また今日も、最終電車に乗るのね・・・」
そう言って彼女は、ため息をついた。
駅のホームで電車を待つ真紀。
しばらくしてホームに入ってきた電車に乗り込んだ。
普段、最終電車はそんなに混んではいない。
しかし今回は、平日朝のラッシュ並みの乗客数だった。
「なんか、人の数すごくない?普段の最終電車は、この半分ぐらいなのになあ」
ギュウギュウな状態で、真紀がつぶやいた。
なんで最終電車なのに混んでるのかなあ、なんて色々考えてみるが、
「あ。明日は祝日か。だから遅くまで飲んだり遊びに出かけたりする人が多いのね」
という事に彼女は気づいた。
「お客様にお知らせいたします。この電車は◇◇行きの臨時便です。臨時便は本日は2本あり、こちらは2本目の電車となります」
車内放送が流れた。
「へえ。臨時便か。なんか大規模イベントでもあって、一時的に乗客が増えたのかな」
◇◇駅なら、真紀が降りる駅だ。普段乗る電車じゃないが、乗っても問題ない。
「電車の扉が閉まります。ご注意ください」
車内放送が流れた。
車内はギュウギュウ詰めの、すごい状態になった。
そして、その状態のまま、電車の扉は閉まり始めた。
「あー、無事に電車に乗れて何よりだわ。今日は帰ったらシャワー浴びて、ビール飲んで寝るわ。
明日は休みだから、遅くまで飲んでもいいわよね・・・」
真紀は一人暮らし。仕事で遅く帰っても、誰も何も言われないのだ。
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