「ちょっといいですか？」
成人女性が『１人でいる卒業生』に声をかけた。
この成人女性は動画業者のスタッフである。
いきなり男性が声をかけると警戒されてしまうからだ。
「はい」と、『１人でいる卒業生』が返事をした。
「私は高校卒業生の進路についてアンケートをしている者です。協力してもらえませんか」
動画業者の女性スタッフが言った。
「少しなら・・・」
そんな返事が来たので、女性スタッフは「ありがとうございます！」と言ったのだった。
「アンケートと言っても簡単なものです。・・・あ、私はアンケート会社『オレンジみかん』の者で、大倉里奈（おおくらりな）と言います」
と、里奈は首からぶら下げている社名と自分の名前が書かれているネームプレートを見せたあと、
クリップ付きボードとアンケート用紙を左手に、右手にボールペンを持った。
「まずはお名前をお願いします」
「竹尾葉月（たけおはづき）です」
里奈はすぐにアンケート用紙に書き始めたが、フルネームではなく『△△葉月』と書いていた。
「今はプライバシーとかうるさいから、こういう表示しないといけないんですよ・・・」
確かに個人情報だの何だのでうるさいのは確かだ。葉月は「そうなんですか・・・」と返した。
「ではアンケートに入ります。あなたは今日が高校卒業式のようですが、
４月から社会人ですか？それとも大学や専門学校への進学ですか？」
その質問に、葉月は返事に詰まってしまった様子を見せ、あわてて里奈はこう付け加えた。
「家業の跡継ぎや、一旦旅に出たりとか・・・」
葉月はボソッとこう言った。
「４月から無職になります・・・」
「あ、ああ、就職先が決まらないんですね」
驚きつつ里奈が言ったが------
「はい・・・。高校の新卒として、いろんな会社に面接に行ったり書類送ったりしたけど、全部不採用で・・・」
「今は求職中、というですね」
「はい。面接でも、えらいオジサンが酷い質問をして来ます。毅然とした態度を取った返しをしたら、即不採用になるから・・・」
「なるほど」
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